企業ESG評価チェック

ESG目標設定と進捗報告の信頼性:ウォッシュ回避のチェックポイント

Tags: ESG, ESG報告, ウォッシュ, サステナビリティ, 目標設定, 情報開示, 信頼性

ESG目標設定と進捗報告における信頼性の重要性

近年、企業が設定するESG(環境・社会・ガバナンス)に関する目標は、ステークホルダーとの重要な対話ツールとなっています。野心的な目標を掲げることは、企業のサステナビリティへのコミットメントを示す上で有効ですが、その達成に向けた進捗報告の信頼性が担保されなければ、「ウォッシュ」(実態が伴わない見せかけの取り組み)と見なされるリスクが高まります。事業会社のサステナビリティ推進室担当者にとって、自社のESG報告、特に目標設定と進捗に関する記述が外部からどのように評価され、信頼性を保つためにはどのような点に配慮すべきかを理解することは不可欠です。

本稿では、ESG目標設定と進捗報告における信頼性確保の重要性を改めて確認し、ウォッシュと疑われる可能性のある兆候や、信頼性を高めるための具体的なチェックポイントについて解説します。

なぜESG目標設定・報告の信頼性が問われるのか

ESG目標の設定とそれに対する進捗の報告は、企業のサステナビリティ戦略の具体性を示す核心部分です。しかし、このプロセスにおいては以下のような要因から信頼性が課題となることがあります。

これらの課題に対処せずに行われるESG報告は、ステークホルダーからの信頼を失い、ウォッシュとの批判に繋がりかねません。

ESG目標設定・報告におけるウォッシュの兆候

以下は、ESG目標設定とその進捗報告において、ウォッシュと疑われやすい具体的な兆候の例です。自社の報告書作成時に照らし合わせて確認することが推奨されます。

信頼性向上のためのチェックポイントと実践的アプローチ

ウォッシュリスクを低減し、ESG目標設定と進捗報告の信頼性を高めるためには、以下のチェックポイントと実践的なアプローチが有効です。

1. 目標設定段階

2. データ収集・管理段階

3. 報告段階

報告記述の具体例(架空)

信頼性が高いと考えられる記述例

「当社は、気候変動目標として、2030年までに2020年比でScope 1+2の温室効果ガス排出量を30%削減する目標を設定しています(SBT認定済み)。2023年度の排出量は2020年比で12%削減となり、計画通りに進捗しています。削減の主な要因は、生産プロセスにおける省エネルギー設備の導入と、再生可能エネルギー由来電力の導入拡大(電力消費量のXX%が再生可能エネルギーに切り替え)です。一方で、Scope 3の排出量削減については、サプライヤーとの連携強化が当初計画より遅れており、現在新たなエンゲージメント施策を検討中です。具体的な取り組みについては、本報告書P.XXのバリューチェーン排出量削減戦略をご参照ください。なお、温室効果ガス排出量データ(Scope 1, 2, 3の一部)については、〇〇監査法人による限定的保証を受けています。」

ウォッシュと疑われかねない記述例

「当社は環境負荷低減に積極的に取り組んでおり、温室効果ガス排出量の大幅な削減を目指しています。昨年度も着実に進捗が見られました。引き続き、地球温暖化対策に貢献してまいります。」 (具体的な数値、基準年、削減率、進捗状況、具体的な取り組み、遅れの有無、第三者保証の有無が不明確)

結論

ESG目標設定と進捗報告の信頼性確保は、単に規制対応や評価機関へのアピールに留まらず、企業の誠実さを示す根幹であり、ステークホルダーとの強固な信頼関係構築に不可欠です。曖昧な表現を避け、具体的で定量的、かつ時間軸を明確にした目標設定、信頼できるデータに基づいた透明性の高い進捗報告、そして必要に応じた第三者保証の活用は、ウォッシュと見なされるリスクを低減し、報告の信頼性を飛躍的に向上させます。

サステナビリティ推進室の担当者としては、自社の目標設定プロセスや報告体制を定期的に見直し、本稿で述べたチェックポイントに照らして改善を図ることが求められます。これにより、外部からの評価向上に繋がるだけでなく、社内における目標達成への意識向上や、実効性のあるサステナビリティ経営の推進にも貢献できるでしょう。